約2,330年前。地中海の覇権を争ったシュラクサのエレクトラム貨
紀元前4世紀末、地中海世界ではシチリア島をめぐってギリシャ系都市とカルタゴ勢力が激しく衝突していました。その時代、シチリア最大級の都市国家シュラクサを支配していたのがアガトクレスです。
本貨は、そのアガトクレス統治下の紀元前306/5年頃にシュラクサで発行されたとされるエレクトラム貨です。CNGでもHGC 2, 1294を、同時期の「50 Litrai – Hemistater」として分類しています。
金でも銀でもない「エレクトラム」
このコインの大きな特徴のひとつが素材です。使用されているのはエレクトラム(金と銀を混ぜた合金)。古代貨幣史において非常に重要な素材で、純金貨や銀貨とは異なる独特の淡い黄金色を持ちます。わずか3.53g、約16mmという小さなコインですが、約2,300年前の地中海世界で実際に用いられた貨幣文化を現在に伝える一枚です。
表面には「アポロン」、裏面には「三脚鼎」
表面に描かれているのはギリシャ神話の神アポロン。月桂冠を戴いた頭像が左向きに表現されています。アポロンは光・芸術・音楽・予言などと結びつけられた、古代ギリシャ世界を代表する神のひとりです。裏面の三脚鼎(トライポッド)は、アポロン信仰、とりわけ神託との結びつきが深い象徴です。この小さなコインは、単なる肖像貨ではなく古代ギリシャの宗教観そのものを表裏に刻んだ貨幣ともいえます。
カルタゴと戦ったアガトクレス
アガトクレスは紀元前317年にシュラクサの実権を握った人物です。シュラクサが危機に置かれる中、彼はシチリア島内で防戦するだけでなく、軍を率いて北アフリカへ渡り、カルタゴ本土を直接攻撃するという大胆な行動に出ました。本貨が発行されたと考えられる紀元前306/5年頃は、まさにこうしたカルタゴとの抗争から政治体制が大きく変わっていく時期にあたります。
「歴史そのもの」を所有する古代貨
古代ギリシャ、シチリア・シュラクサ、アガトクレス、アポロン、エレクトラム、カルタゴとの戦争――複数の歴史的要素が一枚の小さな貨幣に凝縮されています。ローマが地中海世界の覇者となるより以前の時代に作られた貨幣。「金を持つ」というよりも、紀元前の地中海世界を手にする。そんな感覚で楽しめる古代コインです。
NGC Ancientsによる評価はXF。2,300年以上前の古代貨でありながら、肖像や三脚鼎の意匠が現在までしっかり確認できることも、このコインの魅力のひとつです。
※NGCラベルには額面が「50 or 25-Litrai」と併記されています。シュラクサのエレクトラム貨は額面推定に学術的な議論があり、本貨も両論を踏まえた表記としています。
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