こちらは、6世紀のビザンツ帝国を代表する皇帝ユスティニアヌス1世(在位AD527-565)の治世、537-542年頃に発行されたソリドゥス金貨です。NGC AncientsにてCh MS(Choice Mint State)、Strike 5/5・Surface 4/5という高い評価を獲得している個体です。
「ローマに戻したかった男」ユスティニアヌス1世
西ローマ帝国が476年に滅亡した後、かつてローマ帝国が支配していた領土の奪還を目指し、北アフリカやイタリアへ軍を送ったのがユスティニアヌス1世です。名将ベリサリウスらを起用してヴァンダル王国を滅ぼし、東ゴート王国との戦争を進め、一時はローマやイタリアの大部分を帝国の支配下へ戻しました。そのため「ローマ帝国最後の大征服者」とも評される人物です。また、現在のイスタンブールを象徴する建築物のひとつであるハギア・ソフィア大聖堂を建立した皇帝としても知られています。本貨が発行されたのは、まさにユスティニアヌス1世が帝国再建を推し進めていた時代です。
皇帝を真正面から描いた威厳ある肖像
表面には、兜と甲冑を身につけたユスティニアヌス1世の正面胸像が描かれています。皇帝は十字架付き宝珠(Globus Cruciger)と盾を持ち、「世界は神の支配下にあり、皇帝はその地上における統治者である」というキリスト教化したローマ帝国の思想を表しています。盾には騎馬人物の意匠が確認でき、軍事的権威と宗教的権威の双方を一枚の金貨に凝縮したデザインです。周囲には「D N IVSTINIANVS P P AVG(我らが主、ユスティニアヌス、永遠なるアウグストゥス)」の銘文が配されています。
裏面に描かれた天使と「Long Cross」
裏面には、翼を広げて正面を向く天使立像が描かれています。これは古代ローマ貨に登場した勝利の女神ヴィクトリアの図像を受け継ぎながら、キリスト教的な天使へと変化していったデザインです。天使は長い十字架(Long Cross)と十字架付き宝珠を持ち、右フィールドには星が配置され、下部には「CONOB」(コンスタンティノープル造幣・後期ローマビザンツ金貨の品位表記)の銘文があります。NGCラベルの「rv Angel hldg. long cross」という表記から、本貨はSB 139・DOC 8・MIBE 6系統とみるのが有力です。
約1,500年前に流通した「帝国の金」
ソリドゥスは、後期ローマ帝国からビザンツ帝国にかけて長期間使用された代表的な金貨で、高い金品位と安定した重量によって地中海世界の国際的な決済手段として重要な役割を果たしました。本貨の重量は4.48gと、ソリドゥスの標準量目である約4.5gに極めて近く、しっかりとした重量を保った個体です。ローマ帝国からビザンツ帝国へと世界が移り変わっていった6世紀そのものを手にできる一枚といえるでしょう。
※歴史的背景に関する記述は、参考文献に基づく一般的な見方を紹介するものです。






