こちらは、1380〜1422年、フランス王シャルル6世の治世に発行されたエキュ・ドール金貨です。
今からおよそ600年以上前。フランスとイングランドが長期にわたって争った百年戦争の時代に生まれた、中世フランスを代表する金貨の一つです。
発行者であるシャルル6世は、わずか11歳でフランス王に即位しました。
若き頃には「最愛王(Charles le Bien-Aimé)」と呼ばれた一方、後年に精神的な発作を繰り返したことから、後世「狂王(Charles le Fou)」とも呼ばれるようになった、フランス史上でも特に波乱に満ちた君主の一人です。
その治世は、百年戦争だけでなく、王自身の病、国内の権力闘争、ブルゴーニュ派とアルマニャック派の対立など、フランス王国が大きく揺れ動いた時代でもありました。
本品は、まさにそんな中世フランスの激動の時代に実際に生み出された金貨です。
百合紋章と十字架――中世フランス王権の象徴
本貨の大きな魅力の一つが、中世フランスらしい華麗なデザインです。
一方には、フランス王家を象徴するフルール・ド・リス(百合紋章)を配した王冠付きの盾。もう一方には、花弁状の十字架を四葉形の枠が囲む、装飾性豊かな十字架意匠が描かれています。
現代の貨幣が国家や君主の肖像を前面に出すことが多いのに対し、中世ヨーロッパの貨幣には、王権とキリスト教世界の秩序そのものが象徴として刻み込まれていました。
つまり、この金貨は単なる決済手段ではありません。「フランス王とは、どのような権威を持つ存在なのか」――その時代の宗教観、王権、国家の象徴を、わずか数センチの金貨の中に凝縮した一枚ともいえます。
600年以上前の金貨が「MS63」で残るということ
本品で特に注目したいのが、PCGS MS63という評価です。
この金貨が発行されたのは14世紀末から15世紀初頭。日本でいえば、室町時代初期にあたる時代です。
現代の記念貨や地金型金貨のように、発行直後からコレクターがカプセルに入れて大切に保存していた時代ではありません。金貨は実際の経済活動の中で使用され、人から人へと渡り、ときには国境を越え、戦争や政変、貨幣改鋳、さらには金として鋳潰される可能性にもさらされてきました。
それにもかかわらず、本品は600年以上の時間を経て、未使用級のMS63評価を獲得しています。
単に「古い金貨」なのではありません。百年戦争の時代に生まれた金貨が、600年以上を経た現在まで極めて良好な状態で生き残った。その事実そのものが、本品の大きな魅力です。
PCGS最高鑑定タイ――上位鑑定は0枚
本品と同じ分類、同じバラエティDup-369Aにおいて、PCGS MS63の鑑定枚数は12枚。そして、さらに注目すべきなのが、MS63より上位の鑑定枚数は0枚。
つまり、PCGSの鑑定データ上、本品のMS63は最高鑑定タイに位置します。MS63は12枚存在するため、「唯一の最高鑑定品」ではありません。しかし、
PCGS MS63:12枚
PCGS MS64以上:0枚
という数字は、本品の保存状態の高さを具体的に示す重要なポイントです。
本品は、単にシャルル6世時代の金貨を所有するだけではなく、PCGSが鑑定した同タイプの中で、現時点でこれ以上のグレードが存在しない最高鑑定帯の一枚ということになります。
発行枚数だけでは測れない中世金貨の希少性
エキュ・ドールは複数回にわたって発行され、複数の造幣所で製造されたため、シャルル6世のエキュ・ドール全体として見れば、中世金貨の中で極端に現存数が少ないタイプではありません。
また、中世ヨーロッパの貨幣では、近代コインのように正確な発行枚数が現在まで明確に残されていないケースも少なくなく、本品についても正確な発行枚数は確認されていません。
しかし、中世金貨の希少性は、単純に「当時何枚造られたか」だけでは測ることができません。重要なのは、600年以上を経た現在、どれだけの個体が生き残っているのか。そして、その中に、どれだけ状態の良い個体が存在するのか、という点です。
金は価値の高い素材であるがゆえに、時代が変われば古い金貨が鋳潰され、新しい貨幣や装飾品へと姿を変えることもありました。戦争、政変、略奪、改鋳、鋳潰し。600年以上という長い時間そのものが、当時存在した金貨を少しずつふるいにかけてきたのです。
その中で本品は、PCGS MS63という保存状態を維持し、なおかつPCGS最高鑑定タイに位置しています。
中世金貨の希少性とは、単なる発行枚数ではなく、「この時代の、このタイプの金貨が、この状態で残っている」という組み合わせによって生まれるものです。
過去の市場実績について
同ヴァラエティのPCGS MS62個体について、国際市場での取引実績が確認されています。本品はPCGS MS63であり、さらにポピュレーションデータではMS63が12枚、上位鑑定は0枚となっています。
もちろん、中世の手打ち貨幣は、同じタイプ・同じグレードであっても、打刻の鮮明さ、センタリング、金属面の状態、意匠の残り方などによって評価が大きく異なります。そのため、過去の取引価格から本品の現在価値を単純に算出することはできません。
しかし、本品は、「国際市場における取引実績が確認されているタイプの、さらに1グレード上に位置する最高鑑定帯の個体」という点でも、コレクションとして非常に興味深い一枚です。
鑑定情報
本品は、世界的な第三者鑑定機関PCGSよりMS63(Mint State 63)の評価を受けています。600年以上前の中世金貨でありながら、現代の第三者鑑定とセキュリティ技術(PCGS Gold Shield/NFC)によって管理されている点も、現代のコレクターにとって安心材料の一つです。
歴史・実物資産としての価値
金という、時代を超えて価値を持ち続けてきた素材。百年戦争という、ヨーロッパ史を代表する時代背景。「最愛王」から、後世「狂王」と呼ばれるようになったシャルル6世の波乱に満ちた治世。そして、600年以上の年月を超えて残されたPCGS MS63、最高鑑定タイという保存状態。
本品の魅力は、そのどれか一つだけではありません。「金」という実物資産に、600年以上の歴史そのものが重なっている。
シャルル6世が生きた時代、この金貨を手にした人物は、百年戦争の結末を知ることはありませんでした。そして、自分の手にした一枚の金貨が、600年以上後の世界で透明なホルダーに収められ、歴史的なコレクションとして評価されることなど、想像もしなかったでしょう。
王が亡くなり、王朝が移り、国家の姿が変わっても、この小さな金貨は残りました。
600年以上前のフランス王国を、実物として手元に所有する。しかも、PCGS鑑定においてMS63の最高鑑定タイ、上位鑑定0枚という個体で。
金の重量だけでは測ることのできない歴史と希少性。歴史を読むのではなく、歴史そのものを所有する。
百年戦争と内紛、そして王自身の病という幾重もの混乱の中で生み出されたこの金貨は、単なる貨幣を超えて、混迷の時代を生き抜いたフランス王国そのものの姿を映し出しているともいえるでしょう。
中世ヨーロッパ史に関心を持つコレクターはもちろん、歴史、金という実物資産、そして優れた保存状態を兼ね備えた一枚を求める方にとっても、アンティークコインを所有する醍醐味を存分に感じさせてくれる一枚です。






