こちらは、1672年、オランダ北部の都市フローニンゲンで発行された包囲戦貨(Siege Klippe)、12½スタイフェル銀貨です。
1672年はオランダ史において「災難の年(Rampjaar)」と呼ばれ、フランス王国、イングランド王国、ミュンスター司教領、ケルン選帝侯領の四勢力から同時に侵攻を受けた、共和国存亡の危機の年でした。
本品は、その中でもミュンスター司教ベルンハルト・フォン・ガーレン(通称「ボンメン・ベルント(爆弾ベルント)」)率いる軍勢によるフローニンゲン包囲戦の最中に、市内で緊急発行された貨幣です。敵軍による激しい砲撃が続くなか、守備兵への給与支払いや市内経済を維持するために急遽製造されたもので、フローニンゲン市が包囲戦を耐え抜いた不屈の証として、現在も高く評価されています。
クリッペという形状が語る緊急性
本品は通常の丸型貨幣を切り出したものではなく、最初から四角い銀板(クリッペ)として製造された、典型的な包囲戦貨です。一枚ごとに形状やサイズがわずかに異なり(本品も約24~26mm前後の個体差があります)、当時の緊迫した製造状況を今に伝えています。
裏面が片面打ち(Uniface)の無地となっているのも、通常の造幣工程を踏む余裕がなかった緊急発行貨ならではの特徴です。
デザインに込められた意味
表面には、王冠を戴いた「フローニンゲン&オメランデン」の共同紋章盾が描かれています。フローニンゲン市を象徴する双頭の帝国鷲と、周辺地域(オメランデン)を象徴する斜帯のハート形の葉(スイレンの葉/Seeblatt)を組み合わせた意匠で、その左右には額面を示す「12½ ST」が刻まれています。
周囲にはラテン語で「IURE ET TEMPORE(法と時宜〔必要性〕によって)」と刻まれており、包囲下という非常事態のなかでも法の正当性のもとに発行された貨幣であることを示しています。
発行枚数と希少性
1672年夏、フローニンゲン市が完全に包囲された極限状態のなかで緊急発行された本貨は、通常の平時貨幣とは異なり、詳細な鋳造記録を残す余裕がありませんでした。そのため正確な発行枚数は現在まで確認されていません。
発行枚数が記録されていないという事実そのものが、戦時下の緊迫した歴史を物語る特徴であり、本貨の歴史的価値をより高める要素の一つとなっています。
NGC鑑定・保存状態
本品は世界的鑑定機関NGCよりAU55(About Uncirculated/準未使用)の評価を受けています。
砲撃下という極限状態で急ごしらえに製造された包囲戦貨としては、非常に良好な保存状態を維持している一枚です。
歴史・実物資産としての価値
重厚な歴史的背景、独特なクリッペ形状、そして良好なコンディションを兼ね備えた本貨は、17世紀オランダを代表する包囲戦貨(Siege Klippe)の一つとして、現在も世界中のコレクターから高い人気を誇ります。
国家存亡の危機のなかで、市民と守備兵の生活を支えるために打たれた一枚の銀貨。それは350年以上の時を超えて、フローニンゲンという街の不屈の意志を今に伝える歴史の証人です。






